「第4期となる新たな教育振興基本計画」とは

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文部科学省幹部や中央教育審議会委員、教育長など教育界のキーパーソンに、今後の教育改革の行方と、算数・数学教育への期待を尋ねていきます。

今回は、6月に閣議決定された教育振興基本計画などを担当している文部科学省総合教育政策局長の藤江陽子(ふじえ・ようこ)さんにお話を伺いました。

予測困難で変化の激しい時代の羅針盤に

――そもそも教育振興基本計画とは、どういうものでしょうか。

2006年改正の教育基本法第17条に基づき、教育の振興に関する施策の基本的な方針や講ずべき施策を基本計画として定め、国会に報告・公表するもので、政府全体としての総合的な計画となります。地方自治体もこれを参酌して、地方版の基本計画を定めることが努力義務になっています。

08年度以来5年ごとに策定されており、今年度から第4期となる新たな計画(27年度まで)は、中央教育審議会で1年間にわたって精力的に議論してもらった答申をもとに策定したものです。

第3期計画(18~22年度)期間中には、新型コロナウイルス感染症の拡大や、ロシアのウクライナ侵略が起こりました。まさに予測できない、変化の激しいVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代を迎えています。

「邑(むら)に不学の戸なく、家に不学の人なからしめん事を期す」との高邁な理想を示した明治5(1872)年の学制公布以来150年間、誰もが教育を受けられるように進めてきましたが、社会や時代の変化にも対応する必要があります。第4期計画は、そうした「不易と流行」を基本にしつつ、VUCA時代を生き抜くための教育の方向性を示す「羅針盤」であり、教育こそ、社会をけん引する駆動力の中核を担うものです。

「持続可能な社会の創り手」と「日本社会に根差したウェルビーイング」

――第4期計画の特徴は何でしょうか。

①2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成②日本社会に根差したウェルビーイングの向上――を基本計画の大きなコンセプトとして掲げています。

①の「持続可能な社会の創り手」は、受け身ではなく、主体性やリーダーシップ、創造力、課題発見・解決力、論理的思考力、表現力、チームワークなどを身につけ、自ら持続可能な社会を切り拓いていく人材を育成しようというものです。学習指導要領前文の理念を教育全体のコンセプトに掲げたと言っていいでしょう。

②は、計画全体のキーコンセプトともなるものです。ウェルビーイングは▽身体的・精神的・社会的に良い状態にあること▽多様な個人がそれぞれ幸せや生きがいを感じるとともに、個人を取り巻く場や地域、社会が幸せや豊かさを感じられる良い状態にあること――を含む、包括的な概念です。経済的豊かさのみならず精神的豊かさや社会の持続性が求められるなかで、社会全体に急速に理解が広がっています。

「日本発・日本社会に根差した」とは、「調和と協調に基づくウェルビーイング」を発信しようというもので、G7富山・金沢教育相会合でも提案し成果文書にも盛り込まれました。日本人は自己肯定感や自己実現などといった「獲得的要素」が低いと言われますが、人とのつながりや利他性、社会貢献意識などといった「協調的な要素」は決して低くありません。両者を調和的・一体的に育み、教育を通じて向上させていこうというものです。

子どもたちのウェルビーイングを高めるには、教師をはじめ学校全体のウェルビーイングが重要になります。子どもたち1人ひとりのウェルビーイングが家庭や地域、社会に広がっていき、将来にわたって世代を超えて循環していく姿の実現が求められます。

――教師のウェルビーイングも重要になりますね。

子どもたちのウェルビーイングを高めるためにも、教師のウェルビーイングを確保することが必要だと計画でも強調しています。特別なことをやるのではなく、これまで行ってきた学校教育活動の全体を通じて向上を図るよう取り組んでいただくことが重要です。

生涯学習社会のリカレント教育

――政府全体で進めようとしているリスキリング(学び直し)とも関連しますね。

文科省はもともと、卒業後も必要に応じて学校で学ぶ「リカレント(還流)教育」を推進し、生涯にわたって学び続ける生涯学習社会の実現を掲げています。それには高等教育機関が存在感を高めていくことが重要です。23年度予算では、リカレント教育等社会人の学び直しの総合的な充実を図るための事業を計上し、地域ニーズに応える産官学連携のプラットフォーム構築等によってリカレント教育を実施する環境を整備します。

20年度からは、社会人等の学び直し情報発信ポータルサイト「マナパス」を本格運用しています。自分に合った講座のマッチング機能があるほか、会員登録をするとマイページに学習履歴の記録や受講講座のコメントを書き込むことができ、学習履歴をデジタル化した「オープンバッジ」の貼り付け機能も実装しました。日本数学検定協会のビジネス数学検定では、すでにオープンバッジを活用されていますね。

算数・数学で「考える力」育成を

――算数・数学を担当する先生方へのメッセージをお願いします。

数学は、ものの見方・考え方そのものだと思います。政府や自治体が進めるEBPM(証拠に基づく政策立案)も、科学的根拠に基づいて考えることです。算数・数学が社会でどう役に立ち、生きていくうえでどう役立てるかを、子どもたち自身が考えられるようにしてほしいですね。

学び直しのためにも算数・数学は不可欠で、それには学び方を身につけることが大切です。第4期計画のコンセプト①に関しても、算数・数学を通して思考力を高めることができます。「解けた」という喜びも、子どものウェルビーイングにつながっていくのではないでしょうか。

聞き手・渡辺敦司(教育ジャーナリスト)


藤江 陽子
今回お話を伺ったのは…藤江 陽子(ふじえ・ようこ)さん

文部科学省総合教育政策局長
1964年生まれ、東京都出身。88年に文部省(当時)入省後、広島県教育委員会生涯学習振興室長、男女共同参画学習課長、人事課長、スポーツ庁次長などを経て、2022年9月から現職。

※所属・肩書は取材当時のものです。