学習指導要領の次期改訂はどうあるべきか
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文部科学省幹部や中央教育審議会委員、教育長など教育界のキーパーソンに、今後の教育改革の行方と、算数・数学教育への期待を尋ねていきます。
今回は、文部科学省の文部科学審議官の伯井美徳(はくい・よしのり)さんにお話しをうかがいました。
――文部科学省は「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」を進めています。一方で学校の多忙化や教員不足など、学びを支える基盤が揺らいでいます。山積し絡み合う教育改革の課題に、どう対処しようとしているのでしょうか。
個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実については、2021年1月と22年12月の中央教育審議会答申に基づき、指導内容・指導方法の改善と、それを支える教職員集団の養成・採用・研修の充実方策を両輪として、改革を進めてきました。
第12期中教審では、初等中等教育分科会のもと、従来の教育課程部会、教員養成部会、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」に、4月4日に新設された「デジタル学習基盤特別委員会」を加えた体制で、今後も引き続き議論を行っていきます。
中教審以外では、「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」を22年12月に発足させ、23年4月13日に論点整理をまとめてもらいました。同時期に発足させた「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」も、現行学習指導要領の実施状況を把握しながら、今後の課題を論点として整理する予定です。
一方、不登校など児童生徒支援に関しては4月13日、永岡桂子文部科学相をトップとする「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策推進本部」を設けて検討しているところです。
これらの諸会議と、中教審での議論をしっかり組み合わせながら、施策を進めていきたいと考えています。
――多忙化解消は、先生方の大きな関心事です。今後どう臨みますか。
調査研究会の論点整理は、勤務制度や処遇について、こうした場合にはこういう課題が出てくる、という、まさに論点を整理したものです。
近く22年度教員勤務実態調査の速報値が公表されます(本インタビューは4月21日に実施したものですが、その後4月28日、文部科学省より『教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】』が公表されました。)。そこで示されたエビデンス(客観的な証拠)をもとに、中教審で審議してもらうことになります。
そこでは、働き方改革のさらなる進展や、処遇改善に向けた取り組み、勤務のあり方と同時に、教員の魅力向上と志のある人を教員に引きつけるための教職員定数改善や支援スタッフの充実など教育環境の改善を、セットで議論してもらいます。
――とくに中心的な役割を果たすのが、中教審の個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会だと承知しています。今後どう検討が進むのでしょうか。
22年2月の発足後、喫緊の課題であるICT(情報通信技術)化に向けたデジタル教科書・教材・ソフトウエアのあり方を先行して検討してもらいました。
今後はまず有識者検討会の方で、▽学習内容と指導方法をどうするか▽総授業時数をもう少し柔軟化して個別最適で協働的な学びに対応すべきかどうか▽履修主義と修得主義、デジタルとアナログ、遠隔・オンラインと対面・オフライン、一斉指導と個別指導といったことを、二項対立でとらえるのではなく、バランスを取る――といったことについて、じっくり時間をかけて総論的に概念整理をしてもらいます。
それを受けて中教審では、現行学習指導要領の実施状況を把握しながら、次の教育課程の議論につなげていくことになろうかと思います。
10年ごとに改訂するとなると、前回のスケジュール(14年11月に諮問、16年12月に答申、17年3月に告示、20年度以降順次全面実施)を前提とすれば、来年(24年)中には諮問があってもおかしくはありません。
――そんな大掛かりな教育改革に際して、算数・数学教育の役割と、担当教員への期待をお聞かせください。
高等教育では、数理・データサイエンス・AI(人工知能)教育の充実や、STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育、文理横断・融合教育と理系学部の増加が、最重要課題になっていますし、文部科学省といたしましてもさまざまな施策を講じています。初級レベルの数理・データサイエンス・AIを大学生などに年間50万人習得してもらおうという取り組みもその一例です。高等教育や社会人をはじめとした学び直しへの期待も高まっています。
その基盤となる初等中等教育では、いずれも算数・数学教育の重要性が、これまで以上に増していくでしょう。大学が自主的に決めることになりますが、「文系でも入試で数学を課す大学を増やせないか」という議論もあり、実際に数学を入試に課す文系学部も増えつつあります。教科「情報」も数学が基盤となりますので高校での数学教育の指導の充実も重要です。
小学校における算数をはじめとした専科指導やデジタル教科書なども活用しながら、義務教育段階の算数・数学教育の指導の充実にも期待しています。
聞き手・渡辺敦司(教育ジャーナリスト)
文部科学審議官
1962年生まれ、大阪府出身。85年に文部省(当時)入省後、横浜市教育長、教科書課長、財務課長、人事課長、大臣官房審議官(高大接続・初等中等教育担当)、大学入試センター理事、高等教育局長、初等中等教育局長などを経て、2022年9月から現職。
※所属・肩書は取材当時のものです。